私たちが普段聞いている音は、空気の振動によるものです。共振は電子回路や電機などに重要な役割を果たすものですが、ときにやっかいな問題引き起こします。そこでこの記事では、振動試験における共振について解説していきます。
空気の振動や電磁界の振動など、これらは固有振動数を持っています。この振動が外部の振動周期と合うと共振し、振動の幅が大きく高まります。
声でワイングラスを割るというパフォーマンスがありますが、これも共振の一例です。声で空気を振動させ、周波数を調整することでワイングラスに振動を与えて割っているのです。共振振動とワイングラスの固有振動数が合致することで、ワイングラスが割れるという現象が起きます。物体に固有振動を繰り返し与えると、変位がどんどん大きくなります。この物体が大きく揺れる現象が「共振」です。
共振は、テレビや携帯電話などの無線機器の同調回路にも利用されています。
固有振動路は、物体ごとの決まった振動のことをいいます。物体に衝撃を与えると、物体は決まった周波数で振動します。物体を叩くと誰でも同じ音が出せるのは、それぞれの物体が決まった周波数で振動しているためです。この振動を「固有振動」といい、その周波数を「固有振動数」といいます。異なる物体を叩くと違った音がするのは、物体ごとで固有振動が決まっているからです。
固有振動数は1秒あたりに振動する回数です。周波数なので、単位はHzで表します。
共振現象が起きると、耳障りな騒音がでることがあります。掃除機や洗濯機など、ある程度の騒音が出ることが分かっている製品であれば問題ないでしょう。しかし、静かであることが求められる製品に共振が起きると、問題になります。
共振は、騒音の問題だけではありません。部品の故障などで共振が生まれた場合、そのまま使い続けると機械の故障につながる可能性もあるのです。HDDの故障の原因で多いのが、外部から受ける衝撃によるデータの破損です。外部からの衝撃や振動を受け、共振周波数が強調されてサスペンションに伝わると、故障につながります。モノづくりを行う上で、共振を考慮した設計や部品の選定は切り離せない関係ということがわかります。
製品の輸送中に起こる損傷にも、共振が要因のひとつに考えられます。輸送中には、路面の凹凸による振動やサスペンションの振動、車体の振動と、さまざまな振動による影響を受けます。これらの振動が混じりあったものが「ランダム振動」です。ランダム振動が発生すると共振現象が起こりやすくなり、製品にも影響を与えてしまいます。
輸送中の振動による破損には、製品の振動特性を把握しておくことが大切です。製品が共振現象を聞き起こす振動が分かっていれば、製品耐久度の向上を図ったり、設計で共振現象を抑制することができます。
共振を調べるために行うのが、振動試験です。ここからは、主な振動試験の方法や使用機器について、詳しく解説していきます。
振動試験には振動試験装置が用いられ、製品の固有振動数・共振応答・共振倍率・減衰比などが測定されます。
振動試験装置は一定の振動数で加振し、部品の耐久性を調べる振動耐久試験や、振動数を連続的に増減して加振し、部品の耐久性を調べる掃引振動耐久試験などがあります。
共振検査は台座に治具を取り付けて測定の対処物を固定し、ある振動数範囲にて振動を与え、振動に対して発生しているか速度を測定します。共振の有無などを測定する方法です。共振耐久試験は、共振検査で測定した共振周波数で耐久試験を行います。
振動試験の主な用途は、固有振動数評価、加速度評価、ひずみ評価などです。
振動試験では、疲労損傷の原因である振動現象を、ひずみゲージ・加速度計などで測定できます。測定データを分析し、固有振動数やひずみ・加速度の大小の評価が可能です。使用するセンサーは、構造品の使用環境や振動現象によって選定。振動台によりモックアップ試験が可能です。
共振試験で用いられるランダム振動試験とは、ランダムな振動を一定時間かけ続ける振動試験です。試験は複数の正弦波を合成したもので、「IEC 60068-2-64/JIS C 60068-2-64」の規格等で規定されています。フーリエ変換を用いると、振動の周波数とふり幅が違う正弦波の合成波として表せられます。ランダム振動試験は多くの振動成分で振動させるため、短時間で共振現象をとらえられるのが特徴です。また、振動成分が多いことで、実際の環境に近い振動環境を実現できます。
振動の強さは、PSD(パワースペクトル密度)で設定し、強さに強弱をつけることで、振動環境を再現します。
ここからは、共振を調べる振動試験の事例を2件紹介します。
自動車・部品の振動・衝撃試験を行った事例です。自動車・部品の振動試験は、評価手法として、正弦波掃引加振(スイープ加振)が行われます。その後、共振振動数での正弦波加振を目標回数行うことで、耐久試験を実施。自動車部品振動試験方法は、この試験方法が規格となっています。
この試験方法のメリットは、共振振動数を高い正確性で把握できることです。部品にとっては厳しい評価となるため、評価をクリアすれば十分な安全を確保したことになります。ただし、この試験は部品の構造が単純であることが前提です。部品の構造が複雑な場合、共振振動数が2つ以上あることが多いため、耐久試験時に共振振動数の選定を誤ると、実条件と異なる試験を実施してしまう可能性があります。
この事例の試験は、部品レベルの試験は加振力24kNの振動試験機で行われます。ユニット単位での試験は、ユニット単位の試験は加振力125kNの振動試験機で評価されます。試験機は上下方向のみの加振ですが、温度管理下での複合試験の実施も可能です。
構造物の振動測定(ハンマリング試験)の実施例です。ハンマリング試験は試験時間が短いので、現場計測に適した試験です。計測機器も簡単に準備ができるうえ、打診によって加振できるものであれば広く測定できます。
加速度センサを固定して、インパルスハンマで打診位置を変更しながらデータを収集。振動解析ソフトでモデルを作成し、モードアニメーションを作成します。
製品には除振領域と振動増幅領域の特性があります。除振とは、有害な振動を抑えること、振動増幅領域とは、振動を大きくする領域のことをいいます。この2つを理解し、振動の周波数が除振領域に該当していることを確認することで、共振への対策ができます。
振動試験では、共振点を調べることも重要です。共振点を確認することで、共振を避けることが可能になります。