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振動試験のモード解析

振動試験では、製品や構造物の性能と安全性を確保するために、モード解析が不可欠です。ここでは、モード解析の基本や実施手順、メリットなどを詳しく解説します。

モード解析とは

モード解析は構造やシステムの固有振動数—自然に発生する振動の周波数を特定する技術です。振動試験における「モード」とは、システムが特定の頻度で自然に振動する様子を指し、各モードはその構造の一部が特有の方法で振動する状態を表します。理論的には、これらのモードはそれぞれ独自の振動数と形状(モード形状)を持ち、構造が外部から力を受けたときの応答を予測するのに役立ちます。解析を行うことで、構造の弱点や改善点を特定し、耐久性や性能の向上に直接つながる設計の改良を行うことができます。

解析手順

モード解析では、精密な測定と計算が必要です。

まず、振動を計測するためにセンサーを構造に取り付け、外部から振動を加えることで構造がどのように反応するかを記録します。このデータ収集は、加速度計や変位計などのセンサーを使用して行われ、得られたデータはFFT(高速フーリエ変換)を用いて周波数成分に分解されます。

次に、FEM(有限要素法)を用いて、収集したデータから構造の各部がどのように振動するか(モード形状)、そしてその振動に対する固有振動数を計算します。最終的に、これらの情報を基に、構造が実際の運用環境で遭遇可能な各種の荷重やストレスにどのように反応するかを予測し、設計の改善に役立てます。

モーダル解析との違い

よく似た言葉に「モーダル解析」があり、しばし混同されがちですが、実は明確な違いがあります。

モード解析は一般的に、実際の運用条件下での機械や構造物の振動応答を評価するために使用されます。これに対して、モーダル解析は主に構造の固有振動特性を理解するための実験的または数値的手法です。

モーダル解析では、構造物を理想的な条件下でテストし、固有振動数(固有周波数)、モード形状、減衰比などのパラメータを特定します。これらのデータは、構造の設計改善や故障分析に非常に有効であり、モード解析と併用することで、より包括的な振動評価が可能となります。

このように、両者は相補的な関係にあり、それぞれが異なる情報を提供します。

モード解析のメリット

モード解析を用いることで、構造物の振動特性を詳細に把握し、性能を最大限に引き出すことが可能です。特に工業製品の設計段階で重要で、設計者は構造物がどのように振動するかを理解し、それに基づいて改良を加えることができます。

例えば、航空宇宙産業では、航空機の部品やエンジンが特定の振動条件下でどのように振る舞うかを事前に把握し、その結果を基に設計を改善することで、全体の効率を高めると同時に、飛行の安全性を向上させることができます。同様に、自動車産業でも、車両の快適性と性能を向上させるためにモード解析が活用されます。

モード解析の種類と特徴

モード解析は、振動する構造物や機械の動的特性を理解し、設計の効率化や故障診断に活用される重要な解析手法です。特に、振動特性の評価は機械、航空宇宙、自動車、土木構造物など、幅広い分野で必要とされています。

モード解析には大きく分けて「理論モード解析」「実験モード解析」「実稼働モード解析」の三種類が存在します。これらの手法はそれぞれ異なる目的と手法を持ち、適用範囲やメリット・デメリットも異なります。本記事では、それぞれのモード解析について詳細に解説し、さらに検索結果にはなかった追加情報も提供します。

理論モード解析(数値解析による手法)

概要

理論モード解析とは、有限要素法(FEM: Finite Element Method)を利用し、コンピュータ上で振動特性を数値解析する手法です。この手法では、解析対象の構造物を仮想空間に再現し、振動特性を理論的に導出します。解析の精度はモデルの設定に依存し、材料特性、境界条件、荷重条件の設定が結果の信頼性を左右します。

解析の流れ

  • CADデータを基にFEMモデルを作成し、メッシュを生成します。
  • 構造物の材料特性(密度、ヤング率、ポアソン比など)を設定します。
  • 固定条件や拘束条件を定義し、固有値解析を実施します。
  • 得られた固有モードを基に、共振しやすい周波数帯域や変形パターンを分析します。

メリット

  • 実験を行わずに振動特性を予測できます。
  • 大規模構造物や極端な条件下の振動解析が可能です。

デメリット

  • 実環境の影響や材料のばらつき、減衰特性などを完全に再現することが困難です。
  • 実測データとの誤差が生じる可能性があるため、実験モード解析と組み合わせる必要があります。

実験モード解析(加振試験による手法)

概要

実験モード解析は、実際の構造物に加振を加え、その応答を計測することで、固有振動数やモード形状を求める手法です。この手法は、理論モード解析と異なり、実環境に即した振動特性を直接測定できる点が特徴です。

代表的な加振方法

  • インパルスハンマー試験(軽量な構造物向け)
  • 電磁シェーカー試験(精密な周波数スイープが必要な場合)
  • ランダム加振試験(広範囲の振動特性を取得)

メリット

  • 実際の振動特性を直接測定できます。
  • 理論モード解析では考慮できない環境要因を含めた評価が可能です。

デメリット

  • 測定環境の影響を受けやすく、ノイズが入りやすいです。
  • 大型構造物では加振が困難な場合があります。

実稼働モード解析(Operational Modal Analysis, OMA)

概要

実稼働モード解析(OMA)は、人工的な加振を行わず、実際の運用環境における振動応答のみを用いてモード解析を行う手法です。この方法は、航空機、橋梁、発電設備などの大規模な構造物において、運用状態での振動特性を評価するために使用されます。

解析の流れ

  • センサーを設置し、環境振動や運用中の自然な振動を測定します。
  • 時間領域データを収集し、統計的手法を用いて解析を行います。
  • 時間領域のデータを周波数領域へ変換し、固有振動数やモード形状を特定します。

メリット

  • 実際の運用環境下での振動特性を評価できます。
  • 加振装置が不要で、大規模構造物の評価が可能です。

デメリット

  • 加振入力が不明なため、高度な信号処理技術が求められます。
  • 外部環境の影響を受けやすく、データの前処理が重要です。

ハイブリッドモード解析

概要

ハイブリッドモード解析は、理論モード解析と実験モード解析を組み合わせた手法です。理論解析の結果を実験データと照合し、モデルの補正を行うことで精度を向上させます。

応用分野

  • 航空機や自動車の振動設計
  • 橋梁や建築物の耐震解析

減衰モード解析

減衰モード解析という手法も存在し、通常のモード解析に加えて、エネルギー損失や接合部の減衰効果を考慮します。この手法は、振動によるエネルギー散逸を詳細に評価し、振動低減策の設計に役立ちます。

振動試験およびモード解析ソフトウェア

振動試験およびモード解析ソフトウェアは、機械や構造物の動的特性を測定・解析し、設計の効率化やトラブルシューティングを行うために不可欠なツールです。振動試験は、実際の試験環境で振動を加えて応答を取得し、システムの動特性を評価する手法であり、モード解析はその応答データを解析して、構造物の固有振動数・減衰・モードシェイプを求める解析手法です。

振動試験およびモード解析ソフトウェアの共通機能

実験的モード解析(EMA)

多くの振動解析ソフトウェアは、実験的モード解析(EMA)に対応しています。これは、加振装置(インパルスハンマーや電動加振器など)を用いて構造物に力を加え、その応答を加速度センサーなどで測定し、システムの動特性を解析する手法です。

  • 固有振動数(Natural Frequency)の特定
    物体が自由振動する際の固有周波数を求め、共振の発生しやすい条件を特定します。
  • モードシェイプ(Mode Shape)の可視化
    振動時における構造物の変形パターンを3Dアニメーションやベクトル表示で解析できます。
  • 減衰比(Damping Ratio)の算出
    材料の内部損失や構造全体のエネルギー損失を解析し、適切な減衰設計を可能にします。

動的信号処理およびデータ収集

振動試験では、時間領域のデータを取得し、周波数領域へ変換して解析を行います。 そのため、多くのソフトウェアが高度なデータ処理機能を備えています。

  • FFT(高速フーリエ変換)
    時間領域のデータを周波数領域に変換し、特定周波数での振動特性を分析します。
  • パワースペクトル密度(PSD)
    振動エネルギーの周波数依存性を解析し、ランダム振動環境の影響を評価します。
  • 時間履歴解析
    試験中の振動波形を記録し、外部刺激への応答を評価します。

試験データの統合管理と視覚化

  • 3Dモードシェイプアニメーション
    試験結果を3Dグラフィックスで可視化し、構造物の振動を直感的に把握できます。
  • データベース管理機能
    過去の試験データを保存し、比較・解析を容易にします。
  • レポート自動生成
    試験結果をPDFやExcelで出力し、報告業務の効率化を図ります。