治具は、一般の方にはなじみがありませんが、製造業では欠かせない重要な装置として知られています。簡単に説明すると、治具は、機械加工や溶接を行う際に、加工物を固定したり作業をしやすくするための補助工具です。実際に製品を加工する器具ではなく、器具を支えて製造をサポートするのが役割です。治具の使用により加工物を固定できるため作業が安定し、作業効率化と時間の短縮ができるほか、品質を安定させる効果も期待できます。
治具の種類は大きく分けて2つ。加工ラインで使用する多種多様な形状をした器具と、機械加工で用いる治具があります。治具は加工対象物や作業に合わせて製作するため、量産販売されることはなく、一つ一つがオリジナルです。
では、加工法によって異なる治具の種類を紹介しましょう。
一般的な手作業用の治具には下記の4種類があります。
上記のように、手作業用の治具は加工場所や目的、作業内容など条件に合わせて、さまざまな工具が使い分けられています。手作業ではワーク自体も小さくて軽いものが多いため、それに合わせて治具もナイロン樹脂のような軽いものが多くなります。
機械加工で使用される治具には、切断治具、曲げ治具、溶接治具、圧入治具といったものがあります。丈夫な金属製のものが多く、手作業用の治具と比べて重量かつ大きいのが特徴です。大きさはさまざまなですが、中にはクレーンを使って動かすような大きな治具もあります。
加工物を固定する際も、クランプだけではなく、ビス(小ねじ)を用いてしっかりと固定します。加工物や作業内容に合わせて一品一様の治具を製作するところは、手作業の場合と同じです。
振動試験治具には、水平加振台・垂直補助テーブル・サイコロ治具といったものがあります。これらの治具・アタッチメントは、振動試験において非常に重要な役割を果たしています。振動試験を正常に行うためには、しっかりとした供試品の固定と振動伝達が必要ですが、その機能を果たしているのが振動試験治具なのです。振動試験用の治具・アタッチメントが供試品を固定し、安定した振動伝達を行うことにより、条件に合った最適な振動試験を行うことが可能になります。
振動試験で実際に使用されている治具の一つに「サイコロ治具」があります。サイコロ治具は文字通りサイコロのような形状をしており、全面に無数のネジ穴を備えているのが特徴です。外見もさることながら、その役割は、振動試験における供試品の搭載と固定です。サイコロ治具は振動試験装置に供試品を搭載、固定をして、高振動数まで実施する振動試験をサポートします。振動試験装置の振動数や治具の共振振動数、供試品の質量、治具の特性に合わせて設計・製作されています。
振動試験に使用される治具はどのように制作するのでしょうか?
ここでは、振動試験の治具制作における設計のポイントを紹介します。治具の設計と制作を依頼する際の参考にしてみてください。
治具設計のポイントの一つは「重量(体積)」です。重量(体積)の設定は振動試験の結果を左右する可能性があるため、慎重に設計を行わなければなりません。
さらに、「治具の取り付け位置」も重要な設計上のポイントです。特に取り付け穴に関しては、振動試験機の穴と対象物の穴が同じ位置にあると取り付けられないため、取り付け板を製作する際に設計を工夫しなければなりません。
振動試験機の素材については、なるべく軽い素材を用いて設計をします。これは治具と対象物の総重量の条件が定まっているからです。
この他、必要に応じて治具の補強を行う場合もありますが、最終的判断はクライアントが行います。
それでは、一般的な治具制作の流れを紹介しましょう。
一般的な治具制作は以下の流れで行われます。
設計前の打ち合わせから立会・納品までの5ステップです。
以下で各段階での概要とポイントを紹介していきます。
実際の設計に入る前に、治具設計会社とクライアントによる事前打ち合わせを行います。ここでは、治具制作に関する要望や条件をヒアリングしたうえで、設計全体の方向性を決定し、コンセプトや制作の流れを関係者間で共有します。決定内容が治具の仕様や精度に影響する場合もあるため、この段階で設計担当者が同席する場合も少なくありません。
設計・制作をスムーズに進めるため、クライアントには以下の資料持参を求められる場合があります。
試験の対象物は3DデータのみでもOKですが、手にとって確認できる実際の現物があると設計作業がさらにスムーズになります。
次のステップは、見積書の提出です。打ち合わせの後に、設計会社が治具制作の見積もりを出します。見積に盛り込まれる項目は、仕様書制作・部品・材料・設計費などです。依頼者としては、見積もり全体の内訳と、価格が適正かどうか確認しておきましょう。
ちなみに、打ち合わせから制作まで自社一貫体制を敷いている会社に依頼すれば、中間業者へのマージンをカットできるため、高品質と適正価格を同時に実現できる可能性があります。
見積もりを確認した後、治具制作に入りますが、設計図が完成した段階で、ふたたび打ち合わせを行い、設計図と仕様の確認を行います。設計図と仕様書の整合が確認できたら、本格的な治具制作に進むという流れです。
なお、設計会社によっては、この段階での仕様変更や追加に対応していないところもあるかもしれません。途中変更があることを想定する場合は、あらかじめ設計図の完成後でも仕様変更に対応できる会社に依頼するとよいでしょう。
設計図と仕様書の確認がすんだら、いよいよ治具制作に突入します。完成までの日数は治具のクオリティや必要な部品の数によって変化します。治具はさまざまな部品で構成されており、治具が複雑であるほど制作にも日数がかかります。パーツ一つでも高精度なものは日数を要するでしょう。
なお、設計会社の中にはこの段階でも仕様変更に対応できるところもあります。必要であれば設計会社のサービス内容を確認しておきましょう。
治具が完成したら、クライアント立ち合いのもと、治具の現物確認を行います。納品前の最終チェックですが、問題がなければ納品となります。納品と同時に設置も行いますが、必要に応じて操作方法や取扱説明書に関する説明が行われる場合もあります。説明が終わったら納品・設置完了となり、稼働開始です。
納品後、治具に何らかのトラブルが起こった場合は、設計会社に連絡して対応してもらいましょう。
振動試験機の治具を導入したい場合は、振動試験機を取り扱っているメーカーに相談してみましょう。メーカーによっては振動試験機用の治具の制作に対応できるところもあります。振動試験機に詳しいメーカーによる設計・制作なら安心して任せられるでしょう。