振動問題を解決するうえで、重要な鍵を握るのが減衰や減衰比です。ここでは、減衰比とは何かについて基礎から解説します。
振動における減衰とは、振動に対する抵抗力のことをいいます。あるものが振動によって揺れた場合、時間とともに揺れは少しずつ収まっていきます。やがて元の状態に戻りますが、これは減衰という振動に対する抵抗力が働くためです。
もし減衰がなかった場合、振動を受けたものは止まることなく、ずっと揺れ続けてしまうでしょう。しかし、減衰によってエネルギーが奪われることで、徐々に振動は収まっていくのです。
なお、減衰にはいくつかのタイプがあります。
粘性減衰とは、速度と関係する減衰力を指すもので、粘弾性体で使われます。粘性減衰は主に空気抵抗や摩擦抵抗によって発生します。また、減衰力は速度に比例しているため、数式上でもシンプルに表現できるのが特徴です。
構造減衰とは、構造物などの剛性に比例した減衰力を発生させる減衰のタイプです。ヒステリシス減衰と呼ばれることもあります。主にゴムなどの粘弾性体で減衰力が大きく働きます。
また、構造減衰は素材の減衰特性を表現する際に適しているほか、構造物全体の減衰の表現が必要な時にも向いています。粘弾性体はもちろん、金属素材においても構造減衰を用いることが適している場合もあります。
レイリー減衰とは、構造物などの質量と剛性をパラメータに取り、それらに比例している減衰のタイプです。計算を簡単にすることを目的に考案されました。α減衰とβ減衰の2つを算出可能であるとともに、両方を定義する必要があります。
レイリー減衰は、後述のモード減衰が使用できない解析時などに用いられています。例えば直説法の解析においては、モード減衰が適用できないことから、レイリー減衰が広く普及しています。
モード減衰とは、モード解析法を適用する際に用いられている減衰のことをいいます。振動をさまざまなモードに分けた際、各モードで生じる減衰を個別に定義することができます。減衰は各モードに固有のものとなるため、粘性減衰や構造減衰など、減衰の種類を問わないのも特徴です。
モード減衰は、各固有モードが独立しているケースに適しており、モード解析によって減衰比や共振周波数などを求めることができます。
振動における減衰比とは、振動の大きさや収まりやすさを表すための指標のことです。減衰比が小さい物質では、振動が収まるまでに長い時間がかかります。一方で減衰比が大きい物質は、小さい物質に比べて短い時間で振動が収まります。
減衰比は振動の収まりやすさなどに影響しますが、材料や構造、摩擦など、各減衰の要素に大きく依存しています。そのため、初期段階から全ての減衰比を試験し、設計に反映させることは難しいといえます。精密に計算するには、実物を利用した振動試験が求められます。
振動試験を実施するうえで、考慮しなくてはいけないのが共振です。共振とは、振動している物体が外部の振動とシンクロし、さらに大きな振動する現象をいいます。共振が発生すると物体に損傷が発生したり、構造に問題が生じたりするおそれがあります。そうしたリスクを抑えるために、共振をチェックすることが振動試験の主な目的です。
振動試験を実施する際は、共振だけでなく減衰比もしっかりと確認することが求められます。減衰比は、それぞれの素材の減衰特性を表す係数であり、共振による影響を抑えるために把握が必要な要素です。減衰比も考慮したうえで、素材の選定や製品の設計が重要といえます。
振動試験では、素材の減衰特性も調べることが可能です。そのため、減衰特性から各素材の減衰比を求めることができます。
減衰性能の高い素材はさまざまありますが、その中の一つがCFRPです。CFRPはプラスチックの一種で、素材が炭素繊維によって強化されています。軽量で高い強度があるほか、高い剛性と弾性率を持っています。このような特徴から、振動減衰性能の高い素材の一つとされています。
また、マグネシウム合金も振動減衰性能が高い素材です。マグネシウム合金は金属の中でも軽量な一方、高い比強度を有しています。また、振動吸収性能が高く、振動による影響を受けにくいのも特徴です。ありふれた金属であるため、入手しやすい点も魅力といえるでしょう。