校正試験とは、試験機の機能や動作など現在の「状態」を確認するための試験です。修理やメンテナンスに近い概念ですが、両者とは異なります。修理やメンテナンスでは故障を回復したり部品を交換したりしますが、校正試験では修理も交換も行わず、試験機の状態を確認することに終始します。
校正試験を実施する目的とメリットは、一つには「一定期間の過去の試験機の状態を類推できる」ことです。校正試験は定期的に行うため、一定期間の過去にさかのぼって試験機の状態を推定することができます。これが第一の目的です。
第二の目的は第三者証明(第三者による校正結果)を有効とすることです。第三者証明が有効とされた場合、ユーザーによる確認は必要なくなります。ただし、第三者に校正結果が認められるためには、以下の条件を満たしていなければなりません。
上記の条件を満たす校正は第三者証明を有効にできますが、条件が満たされていない校正は第三者に校正結果が認められず、試験機の精度・性能・動作の保有を証明できません。
振動試験機の校正は法定義務化されたものではありませんが、適切な試験を行うために必要な業務です。振動試験機は長く使用することで、消耗はもちろん、故障したり、摩耗したり、気温、湿度などさまざまな要因によって経年変化が起こります。そして、それによって測定値の誤差(器差)が生じ、対象物の品質・性能を維持できなくなるのです。
標準となる値からズレた精度・性能・動作を有する試験機による測定ですから、正確な情報を提供できないのは無理もありません。
さらに、器差のある試験機を使用し続けた場合、測定対象の製品が、国が定める所定規格に適合していることを証明できなくなる問題もあります。規格に適合しない製品は販売ができなくなるため、企業にとっては重大事です。このような事情から、振動試験機の校正は必要不可欠な業務といえます。
冒頭でも触れましたが、校正は修理やメンテナンスとは作業目的や内容が異なります。校正は、試験機の現在の状態(性能・精度・動作)を確認することです。その目的は、一定期間の過去の試験機の状態を推定することにありました。
テクニカルにいうと、校正の作業内容は「器差」を調べることです。器差とは、実際の測定値と本来の標準の値との差です。この差を調べることで、測定対象の製品の本当の品質や性能の状態がわかり、適切な品質管理や性能維持に役立てることができます。このように試験機の現在の状態を正確に診断し、それによって測定対象の製品に対して品質や性能に関する正確な情報を提供するのが校正の役割です。
それに対して、修理やメンテナンスは機器の故障や不具合を「改善」することを目的にしています。清掃や整備、消耗品の交換、故障、劣化による不具合などを修復して、元の状態に復帰させることを目指しますが、校正では改善も修復も行いません。一貫して状態の確認を行うのみです。
振動試験機の校正を定期的に行わなかった場合は、試験対象の製品に対して性能や精度の保証ができなくなります。理由は簡単です。校正をしないということは、今回の測定値が本来の値(標準となる値)からどのぐらいズレているのか、器差を明らかにすることができず、正確なデータを提示することができません。結果、製品保証がデータ的に不可能になるのです。
また、校正期間を延ばした場合も、計測時にもし精度外れになっていたら、校正を延ばした期間の保証ができなくなります。校正は定期的に行うことで過去に遡ってデータの保証が可能になるのですが、それが不可能になるということです。
さらに、試験機を廃棄する際、校正をせずに廃棄するのもNGです。この場合も、最後の校正から廃棄するまでの期間の確認ができず、やはりデータ的な製品保証ができなくなります。
試験機の校正を適切に行うためには、「標準器」と「トレーサビリティの確保」の2つが必要です。
まず標準器とは、振動試験機を含む各種の測定器を校正するために使用する測定器の原器です。この原器を使用することで、測定器の示す値が標準となる値とどれだけズレているかを確認することができます。時計の調整を想起すれば分かりやすいでしょう。時計のズレを調整するときは、基準となる標準時間と比較して行いますが、この標準時間が校正でいうところの標準器です。標準器が示す値と試験機が示す値を比べることで器差がわかり、正確な校正が可能になります。
トレーサビリティとは、日本工業規格 JIS Z8103の定義によれば、以下のようになります。
「不確かさがすべて表記された切れ目のない比較の連鎖によって、決められた基準に結びつけられ得る測定結果または標準の値の性質。基準は通常、国家標準または国際標準」(※)
簡単に要約すれば、校正に用いる標準器の標準が国が定める標準まで辿ることができる、すなわち試験機が適正に校正されていること、或いは信頼に値する校正が行われたことを証明できる、ということです。
トレーサビリティを確保することで、校正が正しく行われたかどうかを確認できます。
※引用元:kikakurui.com
機器の校正を自社で行う場合は、適切な校正を行うための環境条件(校正環境)を設定する必要があります。例えば、長さ測定用機器の校正を行うときは測定室の温度を「20℃」に設定するのが望ましいとされますが、このような温度管理による適切な測定環境の設定が重要です。
環境条件の設定が必要な理由は、外気温により標準器が影響を受けるからです。例えば、外気温の影響を受けた長さ計の標準器で校正を行っても、当然ですが、正確な校正値を得ることはできません。標準器が標準器であるための適切な環境条件を設定することで、正確な校正が実施できるのです。
自社で校正を実施する場合は、上記のポイントを頭に入れておきましょう。自社での校正が難しい場合は、専門業者に外部委託することで実施できます。
振動試験機の校正を自社で行えない場合は、JQA(日本品質保証機構)の試験所に依頼することができます。JQAは、公正かつ中立な第三者機関として、製品試験や製品安全評価などを実施している国内最大級の認証機関です。JQAは、「ISO/IEC 17025」の要求事項を満たした校正機関でもあり、JQAを通じて校正を行いISO/IEC 17025に適合した校正証明を得ることで、校正結果に対する国際的な信頼性を証明することができ、企業のブランド力やイメージアップにもつながります。
ここでは、振動試験機の校正を依頼できるメーカー3社を紹介します。各社の校正サービスの内容や会社の特徴をチェックしてみましょう。
エミック株式会社は、ISO/IEC 17025に基づいた校正機関として認められている会社です。振動測定器や振動環境試験機の製造販売、受託試験業務を請け負っています。校正サービスでは、エミック方式による振動試験装置の校正を提供。センサーや測定機器の公的な精度基準となるトレーサビリティー校正を可能としています。
IMV株式会社は、東京証券取引所スタンダード市場に上場している業務用計測器メーカーです。振動試験装置の開発・製造・販売・修理、振動(環境)試験の受託、計測解析サービスやコンサルティング業務などを手がけています。ISO/IEC 17025:2017の校正機関としての認定も受けており、技術を用いた髙いレベルの校正結果を心がけています。
マルタニ試工株式会社は、土木工学(Civil Engineering)を得意とする総合試験機メーカーです。社内に「校正従事者チーム」および「技術整備グループ」を保有し、校正から整備・調整まで一括して格安の校正試験を提供しています。製品の信頼性と安全性を確保するための品質管理が、高い水準で維持されていることを目指す会社です。